2025.09.09
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鍼灸は科学的な治療といえるのか?
近年、テレビでも鍼灸の特集番組が放送されており、そのなかで鍼灸を科学的に解明するといった試みが紹介されているものがあります。はたして、鍼灸という伝統医学は科学的な治療といえるのかが、今回のテーマとなります。
結論から申し上げますと、鍼灸は「科学的な治療とはいえない」というのが私個人の考えです。
その理由をご説明するにあたり、まず科学的とは何かについて述べていく必要があります。
物事が科学的かどうかの判断要素はいくつかありますが、そのうちの一つに「再現性」というものがあります。同じ方法・条件を用いれば、誰が行っても同じ結果が得られる場合は「再現性がある」といえます。
2014年に起きたSTAP細胞事件をご記憶の方も多いのではないでしょうか。あの事件も研究結果の再現性が否定されたことが、研究の不正が認定されるきっかけとなりました。このように科学的かどうかの判断において、再現性の有無は非常に重要な要素となります。
では、鍼灸の技術と効果に再現性はあるのでしょうか?
前回の記事でも述べさせていただいた通り、東洋医学に基づく鍼灸の本質は「気」というエネルギーを動かすことにあります。少しテクニカルな話になりますが、気を動かすには非常に繊細な鍼さばき、手の柔らかさ、脱力、呼吸など様々な要点があり、熟練の技術を要求されます。
かつて、ある鍼の名人は「鍼は手の芸術である」と評されました。陶芸教室に数週間通った者が名工の作品を再現できないように、鍼の初学者が名人の技術と効果を再現することは、およそ不可能です。
そのような意味では、再現性を重視する現代医学と異なり、鍼灸は陶芸や書道のような伝統芸能に近いものといえると思います。
鍼灸の古典書物には技術に対する説明が非常に詳細に記録されており、先人たちが感覚の言語化に腐心されていたことが窺えます。そのことは技術の重要性とその習得がいかに困難であったかの裏付けとなっていると考えられます。
今回のポイント
・科学的かのどうかの重要な判断要素は再現性の有無にある
・熟練の技術を要する鍼灸は伝統芸能に近く、再現性が乏しい
・それゆえに鍼灸は科学的な治療とはいえない
今回の結論に対して「鍼灸の科学性を示す論文も発表されているではないか」といった疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
その問いにお答えするために、次回は現代的な鍼灸と古典的な鍼灸、その両者の違いについてご説明させいただく予定です。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
それでは、次回もよろしくお願いします。